人類は年間500億トンの砂を採掘している。あらゆる固体資源を上回る量である。沈む三角州、砂マフィア、そして代替材の実力を検証する。
世界的な砂危機とは、規模の大きさと不可視性が重なり合った危機である。国連環境計画(UNEP)が2026年5月に公表した、このテーマで3冊目となる報告書によれば、砂の需要は半世紀で5倍に増えた。1970年に96億トンだった需要は2020年には500億トンに達し、年平均の伸び率は3.2%である ✓ 確認済み事実 [1]。UNEPは2022年の評価報告書で、同じ量を物理的な姿に置き換えている。幅27メートル、高さ27メートルの壁で地球全体を囲めるだけの量が、毎年採取されているというのである [2]。2026年版の報告書は、2024年時点で砂の市場規模を5694億ドルと見積もり、年率約3%で拡大しているとした。さらに、建築部門だけでも需要は2060年までに45%増えると予測する ◈ 強力な証拠 [1]。コンクリート、アスファルト、ガラス、そして埋め立て地は、いずれも砂と砂利でできている。都市が立ち上がり、高速道路が敷かれ、海岸線が沖へと押し出されるのは、砂があるからにほかならない。ところが大半の国において、砂は統計にほとんど記録されていない。無尽蔵に見えるという理由だけで、管理らしい管理を受けずにきた資源なのである。
500億トンという数字は、1人1日あたりに換算すると約18キログラムになる。当時UNEP事務局次長を務めていたジョイス・ムスヤ(Msuya)は2020年、世界は自然が生み出す速さを上回るペースで砂の「予算」を使い果たしつつあると率直に語った ◈ 強力な証拠 [3]。この比較が重要なのは、砂が地質学的な時間尺度でしか再生しないからである。河川は数千年をかけて山を削って砂をつくり、それを三角州や海岸へ運ぶ。UNEPが2014年に発した警告『砂は思われているより希少である』は、砂と砂利が今や再生をはるかに上回る速度で採取されていると結論づけた [4]。オーロラ・トーレス(Torres)らが2017年に『サイエンス』誌で発表した論文は、2010年における砂と砂利の採取量を286億トンと推計した。これは人類が地球から取り出す物質として、すでに単独で最大の区分である。同論文はまた、建設資材の使用量が1900年から2010年までに23倍に増えたことも指摘している ✓ 確認済み事実 [5]。その2年後には、メッテ・ベンディクセン(Bendixen)らが『ネイチャー』誌の論評で、2050年までに需要が供給を上回る見通しであり、取引の多くは記録されていないか違法であると警告した [6]。
砂は、はるかに大きな物質循環に組み込まれている。国際資源パネル(IRP)による報告書「世界資源アウトルック2024」は、世界全体で採掘される物質量が1970年以降に3倍以上、すなわち300億トンから1060億トンに増えたと指摘し、2060年までにさらに60%増えると予測した ✓ 確認済み事実 [7]。この流れにおいて最大の構成要素は非金属鉱物であり、その大部分は砂、砂利、砕石である。用途は少数の部門に集中している。
- コンクリート:米国では建設用の砂と砂利のうち42%がコンクリート用骨材に回り、単独で最大の最終用途となっている [8]
- 道路:さらに20%が路盤や舗装材となり、9%がアスファルトに使われる [8]
- 盛土と埋め立て:米国の生産量のうち12%は盛土に用いられる。アジアでは埋め立てが占める割合ははるかに大きく、シンガポール1か国だけで20年間に5億1700万トンを輸入した [8] [3]
- エネルギー基盤:2026年版UNEP報告書によれば、風力発電所を構成する物質量のおよそ70%を砂と砂利が占める [9]
- 産業用途:ガラス、鋳造用の鋳型、水圧破砕。2025年には米国で産業用砂1億2000万トンが使われ、水圧破砕だけでそのうち81%を消費した [10]
需要曲線は都市の拡大と軌を一にしている。2026年版UNEP報告書によれば、1人あたりの市街地面積は1975年に43平方メートルだったが、2025年には63平方メートルに広がった ◈ 強力な証拠 [1]。この拡大は地理的に偏っている。2014年に広く報じられたバーツラフ・シュミル(Smil)の試算では、中国は2011年から2013年にかけて約66億トンのセメントを使った。米国が20世紀を通じて消費した44億トンを、わずか3年で上回ったことになる [11]。『ネイチャー・ジオサイエンス』誌に掲載された2024年の研究は、2012年時点で中国が世界における砂消費量の半分近くを占め、1995年から2020年にかけて中国国内での砂供給が約400%増えたと推計している ✓ 確認済み事実 [12]。ラゴスからジャカルタまで、巨大都市も高速鉄道も沿岸埋め立て事業も、すべて同じ蓄えに依存している。砂が、同程度に重要なほかのほぼすべての商品と異なる点は、この蓄えが数えられていないことにある。世界共通の取引価格は存在せず、生産割当を公表する生産者カルテルもない。石油産業における埋蔵量会計に相当する仕組みも見当たらない。
統計上の空白自体が、最も重要な発見のひとつである。米地質調査所(USGS)は、世界で最も詳細な鉱物データを公表する機関のひとつである。そのUSGSによれば、2025年に米国で生産された建設用の砂と砂利は8億7000万トン、金額にして126億ドルに達した。供給源は約3400社が操業する約6500か所の採取場である ✓ 確認済み事実 [8]。ところが同じ品目について、世界生産量の欄は空白のままである。信頼に足る生産情報が存在しないからである [8]。国際貿易統計はさらに奇妙な実態を示す。国連の貿易統計データベース(UN Comtrade)が記録する2022年の国境を越えた砂取引は約11億ドルにすぎず、しかもその80%超は建設用ではなく高品位の珪砂である [13]。数千億ドル規模とされる市場と照らし合わせれば、結論は避けがたい。大半の砂は書類上で国境を越えることがなく、越えたとしても記録は一貫性を欠くか、そもそも残されていない。
膨大な量、局地的な採取、統計上ほぼ見えないという特性。この組み合わせこそ、砂が地球上で最も管理の行き届かない資源となった理由である。UNEPの2026年版報告書は、この問題を「砂ギャップ」と位置づけている。人類は、砂が補充されるより速く採取しているというのである ◈ 強力な証拠 [14]。本報告では以下、このギャップが実際に何を意味するかを検証する。砂漠に砂があふれていても都市の不足が解消されないのはなぜか。採取は河川、三角州、海底に何をもたらしているのか。規制の弱さが残した隙間で、犯罪市場はどう拡大したのか。そして代替材は何を実現でき、何を実現できないのか。中心となる主張は単純である。砂危機とは、世界から砂粒が尽きるという話ではない。必要とされる場所で、手が届き、用途に適し、安く採れる砂が尽きつつあるという話である。そしてその不足の代償は、崩れる川岸、沈む三角州、失われる人命によって支払われている。
砂ならば何でもよいわけではない
局地的な希少性を生む地質と経済
アラビア半島は砂漠に囲まれている。にもかかわらず、ドバイは世界一高い塔を建てるためにオーストラリアから砂を輸入した ◈ 強力な証拠 [3]。砂を均質な物質ではなく、粒の形と運搬距離によって有用性が決まる、重く安価で等級のある素材として捉えれば、この逆説は解ける。
砂危機を理解するうえで、まず退けるべき誤解は「砂はどこにでもある」というものである。地質学的には確かにそうである。しかし経済的に見れば、建設に必要な砂ははるかに限られた区分にとどまる。コンクリートには、互いにかみ合い、セメントペーストとよく結合する角ばった粒が欠かせない。河川や湖、浅い海で水に磨かれた砂は、粒径と角の具合がちょうどよく混じり合っている。これに対して砂漠の砂は、数千年にわたって風に転がされてきた。粒は小さく丸く滑らかで、コンクリートに混ぜてもかみ合わない ◈ 強力な証拠 [3] [15]。この物理的性質ひとつで、湾岸諸国が砂を輸入するという一見ばかげた現象は説明がつく。世界の砂取引を扱った『オーシャノグラフィー』誌の総説によれば、パーム・ジュメイラには3億8500万トン、ザ・ワールド計画には4億5000万トンの砂が投じられ、ドバイ近海で利用可能な海砂は枯渇した。ブルジュ・ハリファに使われた砂もオーストラリアから輸入されたという [3]。豊富にあることと、使えることは同じではない。
第2の制約は重さである。砂は商業的に流通する素材として最も重く、最も安い部類に属する。そのため輸送費はすぐに製品価値を上回り、骨材はきわめて地域性の強い事業となる。米国で生産が約6500か所の採取場に分散しているのも、まさに砂を少し遠くへ運ぶだけで採算が合わなくなるからである。USGSは、近隣の鉱床が開発で覆われたり、用途地域の指定で使えなくなったり、掘り尽くされたりするにつれ、都市部における建設用の砂と砂利の不足は深刻化すると見ている ✓ 確認済み事実 [8]。ここから、ハノイでもナイロビでも繰り返される構図が生まれる。最も安く残っている砂は都市に最も近い砂であり、それは通常、川や湖、沿岸の大陸棚にある砂である。こうした鉱床こそ、三角州に土砂を供給し、海岸を守り、川岸を支えるという生態系上の役割を担っている。そして採取の監視が最も難しいのも、まさにこうした場所である。
河川の砂は、さらに強い圧力にさらされている。河川は、自然供給と採取量を比較しやすい場所だからである。『ネイチャー・サステナビリティ』誌に掲載された2020年の研究は、メコン川下流域で毎年約5000万トンの砂が採取されていると推計した。これに対し、自然に運ばれる砂の量は約618万トンにとどまる ◈ 強力な証拠 [17]。問題の核心はこの比率にある。資源が絶対的な意味で尽きかけているわけではない。川が補充できる速度の何倍もの速さで取り去られているのである。砂がどこにでもあるように見えても建設用の砂が不足する理由は、4つの物理的事実で説明できる。
- 粒の形:風で丸くなった砂漠の砂はコンクリート内でかみ合わず、地球上で最大の目に見える埋蔵量が選択肢から外れる [3]
- 距離:1トンあたりの価値が低いため遠距離輸送は採算に合わず、都市は近隣の川や大陸棚に縛られる [8]
- 補充:河川や沿岸にある砂は、堆積物の流れによってのみ更新されるが、ダムと採取がすでにその流れを細らせている [17] [18]
- 土地利用:都市に近い採石場や採取場は、自らが資材を供給する都市の拡大によって次第に覆われていく [8]
ダムは上流で土砂をせき止め、問題をさらに深刻にする。メコン川について、ジュリアン・ジョーダン(Jordan)らが2019年に『サイエンティフィック・リポーツ』誌で発表した研究は、ティエン川(前江)における全長20キロメートルの区間ひとつだけで、年間464万立方メートルの砂が採取されていることを計測した。しかも、その区間に流れ込む浮遊砂は、採取量の44%しか補えていなかった ✓ 確認済み事実 [18]。ベトナム側デルタ全体に関する公式数値は年間1777万立方メートルだが、著者らは実際にははるかに多い可能性が高いと判断している [18]。川底にできた採掘穴は、深さ17メートルを超えていた。浚渫船がいま運び去っている砂は、事実上、何世紀もかけて積もった堆積物である。そして上流の貯水池がある限り、それを補うはずの土砂の多くは二度と届かない。
だからこそ、「世界的な不足」という言い方は、理解を助けると同時に誤解も招きうる。一部の地質学者や業界の論者は、地球には事実上無尽蔵の砂と岩石があると主張しており、狭い意味ではそれは正しい ⚖ 議論あり [19]。証拠が実際に示しているのは、重なり合う局地的な希少性の集合である。適切な等級であること、適切な距離にあること、適切な価格であること、そして適切な許可があること。そのいずれかが欠けている状態である。UNEPの2022年報告書は、こうした捉え方を提言に反映させている。砂を戦略的資源として認識すること、採取を地図化して監視すること、海浜や活動中の河川系を無償の供給源として扱わず保護すること、を求めているのである [2]。
局地的な希少性は、価格にはっきりとした痕跡を残す。2018年の著書『砂と人類』でこの問題を広く知らしめたヴィンス・バイザー(Beiser)は、砂の価格がおよそ30年で約5倍になったと報告している ◈ 強力な証拠 [20]。ベトナムでは2017年、建設省が2020年までに国内の建設用砂が枯渇しうると警告した。2016年から2020年までの需要見通しが21億〜23億立方メートルだったのに対し、埋蔵量は20億立方メートル強にすぎなかった。わずか数週間で価格が最大200%上昇したことも報告されている [21]。最も安い合法的な供給源が高騰するか枯渇すると、2つのことが起きる。建設業者は代替材を探し、採取はまったく合法ではない場所や手法へと移っていく。以下では、その両方を検証する。
砂採取による環境負荷は、推測の域にとどまる話ではない。ロイス・コーンケン(Koehnken)らが2020年に『リバー・リサーチ・アンド・アプリケーションズ』誌で発表した総説によれば、河床低下(川底が下がる現象)は河川での砂採取がもたらす物理的影響として最も一般的で、最もよく裏付けられている。その影響は無脊椎動物、魚類の移動、食物網へと連鎖的に広がる ✓ 確認済み事実 [22]。川底が下がれば、川沿いの地下水位も下がる。井戸は枯れ、支流は自らの河道を削り込んでいく。UNEPは2019年の報告書で、河川での採取を汚染、洪水、地下水位の低下、そして干ばつの頻度と深刻さに結びつけた [15]。スリランカでは、世界水パートナーシップ(GWP)が、国内103河川のうち35河川超で違法採掘を確認した。ニルワラ川沿いでは地下水位が12〜15メートル、場所によっては最大30メートルも低下している ◈ 強力な証拠 [23]。もっとも、コーンケンの総説は厳しい但し書きも添えている。証拠の大半は温帯の河川から得られたものであり、現在最も激しく採取が行われている熱帯の河川系から得られたものではない [22]。
低地で人口が密集する三角州において、採取が供給を上回ったときに何が起きるか。メコン・デルタはその最も明瞭な事例である。デルタの平均標高はわずか0.8メートルにすぎず、ジョーダンらの研究は年に数センチメートルの地盤沈下を記録した ✓ 確認済み事実 [18]。2003年から2017年までに、調査区間沿いでは1.86平方キロメートルの土地が川岸の侵食によって失われた [18]。2023年10月にロイターが報じた世界自然保護基金(WWF)主導の評価によれば、デルタでは毎年3500万〜5500万立方メートルの砂が採取されている。これに対して採掘可能な埋蔵量は約5億5000万立方メートルであり、前年に上流からデルタへ流れ込んだ砂は約400万立方メートルにすぎなかった ◈ 強力な証拠 [24]。この数字に従えば、デルタ河床にある砂は2035年ごろに枯渇しうる。ベトナム当局は2016年以降、約800か所で侵食を記録している [24]。
海洋での採取にも独自の代償が伴う。しかも、つい最近までほとんど監視されてこなかった。UNEPのマリン・サンド・ウォッチは、GRIDジュネーブが浚渫船から発信される船舶自動識別信号を用いて構築したもので、海洋採取を世界規模で計測する初の試みとなった。年間60億トンという中央推計値とともに、北海、東南アジア、米国東海岸が集中地域として示されている ◈ 強力な証拠 [16] [25]。2026年版UNEP報告書は、浚渫会社の半数が海洋保護区内で操業し、浚渫量全体のうち15%が保護区内から採取されていることを明らかにした [14]。浚渫は堆積物を巻き上げ、海草や珊瑚を覆い、海底生息域を破壊し、絶え間ない水中騒音を生む。同報告書はまた、23億人が小規模漁業に依存しており、その多くが浚渫の集中する沿岸海域で営まれていると指摘する [1]。
浅海での採掘活動と浚渫がもたらす環境影響は、生物多様性、海水の濁り、海洋哺乳類への騒音影響を含め、憂慮すべき規模に達している。
パスカル・ペドゥッツィ(Peduzzi)、国連環境計画GRIDジュネーブ所長、2023年9月5日 [16]沿岸での砂採取は、最も目に見えやすく、最も直接的な破壊をもたらす形態であることが多い。モロッコについてUNEPは、国内で年間に使われる砂の半分超、約1000万立方メートルが違法な沿岸採取によるものと推計しており、タンジェからサフィに至る海岸から砂浜がはぎ取られている ◈ 強力な証拠 [26]。カリフォルニアでは、砂丘での採掘が年0.5〜1.5メートルの海岸侵食と結びつけられている [3]。インドネシアのリアウ諸島について、「ザ・カンバセーション」に掲載された2025年の分析は、輸出向けの浚渫によって26の小さな砂州島が消失したと数えている。輸出先の大半はシンガポールであった [27]。確認されている被害の類型は、大陸を問わず共通している。
- 河床低下と川岸の崩壊:メコン川下流域では約2メートルの河床低下から始まる [17]
- 地下水位の低下と塩水の侵入:スリランカでは12〜15メートルの地下水位低下が記録されている [23]
- 三角州の地盤沈下と土地の喪失:すでに海面上昇に脅かされている地域で進行する [18]
- 砂州で営巣する生物における生息地の破壊:絶滅危惧IA類のインドガビアルもその一例で、個体数の約90%がインドにある国立チャンバル保護区に生息する [28]
- 沖合浚渫による漁業と海洋生息域への打撃:保護区の内側でも起きている [14] [29]
インフラは、それほど目立たない犠牲者である。橋は特定の高さにある川底を前提に設計されている。採取によってその川底が下がれば、橋脚は洗掘にさらされる。2001年3月4日、ポルトガルのエントレ・オス・リオスでドウロ川に架かるヒンツェ・リベイロ橋が崩落し、59人が死亡した。犠牲者の多くはバスの乗客であった。調査の結果、数十年に及ぶ砂採取と洪水が重なって橋脚の基礎が弱っていたことが指摘され、公共事業担当の大臣が辞任した ◈ 強力な証拠 [30]。2000年8月には、台湾南部の高屏大橋が台風ビリスの最中に崩落し、22人が負傷した。過剰な砂利採取によって川底が深く掘り下げられていた後のことである [31]。こうした事故はまれだが、仕組みをよく示している。採取は、浚渫業者が抱えるべき負担を私的な帳簿から公共インフラへと移し替える。しかもその負担が表面化するのは、多くの場合、数十年後である。
砂の採取がインフラ会計に費用として計上されることはまれである。それでも、その帰結は確実にそこへ行き着く。掘り崩された橋脚、干上がった灌漑用井戸、崩れかけた堤防、そして砂浜がはぎ取られた後に必要となる海岸防護である。被害は遅れて、しかも広く薄く現れるため、利益を得る事業者と負担を負う公的機関が同じであることはほとんどない。
気候という側面が、さらに問題を重層的にする。メコン、ガンジス・ブラマプトラ、珠江といった三角州は、海面上昇に最もさらされた地域であると同時に、砂が最も激しく採取されている地域でもある。沈みゆく三角州から堆積物を取り除けば、沿岸適応策が食い止めようとしている現象そのものを加速させることになる。一方、国際資源パネルの推計によれば、物質の採掘と加工は温暖化をもたらす世界の排出量における約60%を占め、セメントや骨材などの非金属鉱物がその相当部分を担っている ✓ 確認済み事実 [7]。つまり砂は、二重に気候危機に関わっている。ひとつはコンクリートに内包された炭素を通じて、もうひとつは海岸をその影響から守る堆積物の仕組みを破壊することを通じてである。
砂マフィア経済
インドからモロッコ、ケニアに至る違法採取
2020年12月から2022年3月までの16か月間に、インドでは砂採掘に関連して418人が死亡した。うち43人は、放置された採掘穴で溺れた子どもである ◈ 強力な証拠 [32]。合法的な供給が乏しく取り締まりが弱い場所では、砂は組織犯罪の稼業となる。
インドは、砂採取がもたらす人的被害が最も体系的に記録されてきた国である。その多くは、南アジア・ダム河川人民ネットワーク(SANDRP)の活動による。同団体が2022年にまとめた資料は、2020年12月から2022年3月までに砂採掘に関連して418人が死亡し、434人が負傷したと記録している ◈ 強力な証拠 [32]。死者のうち294人は砂運搬トラックが絡む交通事故、95人は砂や石を掘る採掘場での崩落事故によるもので、48人は砂の採掘穴で溺死した。溺死者のうち43人は子どもである [32]。採掘集団による暴力で民間人12人が殺害され、政府職員126人が襲撃され、うち2人が死亡した。州別ではウッタル・プラデーシュ州が102人、ビハール州が76人の死者を記録している [32]。東インドに限った追跡調査では、2022年4月から2023年2月までに135人が死亡した。うち92人がビハール州で、川底の採掘穴での溺死24件を含み、犠牲者の多くは幼い子どもであった [33]。
暴力は、この取引を止めようとする人々に向けられる。2018年3月26日、マディヤ・プラデーシュ州ビンドで、ニュース・ワールドTVの記者サンディープ・シャルマ(Sharma)がトラックにひかれて死亡した。警察と地元の砂マフィアとの癒着を暴く潜入取材を発表してから数か月後のことであった。シャルマは2017年12月に警察の保護を求めていたが、拒否されていた ✓ 確認済み事実 [34]。2022年7月19日には、ハリヤナ州ヌー県パチガオン近郊で違法採掘を視察していた警察副本部長スレンダー・シン(Singh)が、ダンプカーにひかれて死亡した。その10年前、2012年3月には、モレナで警察官ナレンドラ・クマール(Kumar)が、違法に採掘された石を積んだトラクターにひき殺されている [35]。環境誌「ダウン・トゥ・アース」はSANDRPを引用し、2019年1月から2022年半ばまでに、採掘マフィアによって公務員11人、記者と活動家5人、村民23人が殺害されたと数えている [35]。
国際組織犯罪対策グローバル・イニシアティブ(GI-TOC)は、インドにおける砂市場を、成長経済における「無秩序な組織犯罪」の事例と表現している。同団体が2019年に発表した分析によれば、インドでの砂需要は2000年から2017年までに3倍に増え、市場規模は約1500億ルピー、ドル換算で約20億ドルに達した。この需要を支えているのは、国内総生産(GDP)の約9%を占め、3500万人超を雇用する建設部門である ◈ 強力な証拠 [36]。同分析が描く構造は単一のカルテルではない。地元の事業者、政治家、警察、役人が利権を分け合う網の目である。裁判所は繰り返し介入してきた。2019年4月、インドの国家グリーン裁判所は、クリシュナ川とゴーダーヴァリ川流域における違法採掘をめぐり、アーンドラ・プラデーシュ州政府に10億ルピーの暫定賠償を命じた。福祉策として砂を無償で配る政策であっても、無規制な採掘を正当化することはできないとの判断である [37]。2026年3月には最高裁判所が、国立チャンバル保護区で続く違法採掘を職権で取り上げ、保護区を守るために準軍事部隊を投入することを検討した [28]。
行政は、政治・企業・官僚機構にまたがるマフィアまがいの癒着構造を前に後退しつつある。この結びつきは、司法命令を無視するために共謀している。
プレム・マハデヴァン(Mahadevan)、国際組織犯罪対策グローバル・イニシアティブ上席研究員、2019年7月18日 [36]需要が大きく合法的な供給が限られている場所では、どこでも同じ構図が繰り返される。ケニアでは、安全保障研究所(ISS)による組織犯罪対策プログラムENACTのために行われた2022年の研究が、暴力的な砂カルテルが国家関係者の保護下で、場合によってはその支配下で活動していることを明らかにした ◈ 強力な証拠 [38]。モロッコでは、年間の砂消費量における半分超が、海浜や砂丘での違法採取に由来する [26]。スリランカでは、建設用の砂のうち50%超が違法な供給源から来ていると推計された [23]。カンボジアについては、グローバル・ウィットネスが2010年、政府が2009年に定めた砂の浚渫と輸出に関する一時停止措置が日常的に無視されていたと報告した。許可は、与党の上院議員2人を含む政治的なつながりを持つ人物が握っていたという [39]。中国は取り締まりを繰り返してきた。2024年の「平安長江」作戦では、違法な砂採掘に関わる刑事事件130件超が摘発され、600人超の容疑者が逮捕された [40]。
違法な砂採掘は、主に一部のならず者業者による話ではない。それが栄えるのは、3つの条件が重なる場所である。建設ブームによる需要があること。禁止措置や遅い許認可によって合法的な供給が制限されていること。そして取り締まり機関が薄給で、武力で劣り、あるいは共犯関係にあることである。合法的な代替手段への投資を伴わない禁止措置が新たに出るたびに、犯罪網が利用する価格差は広がっていく。
その理由は経済にある。砂は採取場では安く、建設現場では高い。したがって利ざやは加工ではなく、砂へのアクセス自体にある。川岸の一区間、トラックの車列、そして許可を出す、あるいは見逃す役人を押さえた集団は、採取費用と納入価格との差額をほぼ丸ごと手にすることができる。長年この取引を調査してきたバイザーは、直近の数年間で数百人が砂をめぐって殺害されたと結論づけた ◈ 強力な証拠 [20]。トーレスらは『サイエンス』誌で、横行する違法な採取と取引を、砂という共有資源を特徴づける要素のひとつに挙げた [5]。共通しているのは、砂が重く、どこにでもあり、出自を持たないという点である。いったんコンクリートに混ぜ込まれれば、砂がどこから来たかをたどることは不可能になる。
世界市場において違法な採取が占める割合を数量化することは、依然として不可能である。バルセロナ自治大学の研究者らは、合法的に採掘された砂と違法に採掘された砂を世界規模で区別できる定量データは存在しないと指摘している ⚖ 議論あり [41]。違法な砂取引の規模について、ネット上で出回っている世界全体の数字は、検証可能な一次資料にさかのぼることができず、慎重に扱うべきである。証拠が裏付けるのは、より狭いが、より深刻な事実である。インド、ケニア、モロッコ、スリランカ、カンボジアでは、独立した調査者が、組織的な違法採取、組織化された暴力、そして公的機関の共謀を記録してきた。次章では、同じ不透明さが国際貿易でどのように作用しているかを検証する。国際貿易においては、その空白を正確に測ることができる。
シンガポールの帳簿
鏡像貿易統計の食い違いが明かす越境砂取引
シンガポールは輸入した砂を使って国土面積を約24%広げた ✓ 確認済み事実 [27]。記録に残る限り、世界最大の砂輸入国である。供給国は次々と輸出を禁じてきたが、貿易統計の数字がきちんと一致したことは一度もない。
シンガポールは、砂に依存する国家の典型である。世界の砂取引を扱った『オーシャノグラフィー』誌の総説によれば、同国は20年間で5億1700万トンの砂を輸入した。これはどの国よりも多く、1人あたり消費量は5.4トンにのぼる ✓ 確認済み事実 [3]。埋め立てによって40年間で約130平方キロメートルの新たな土地が生まれ、「ザ・カンバセーション」に掲載された2025年の分析は、この都市国家が輸入砂によって国土面積を約24%拡大したと推計している [27]。供給してきたのは近隣諸国である。2002年以前、インドネシアは年間5000万トン超の海砂をシンガポールに送っており、その多くはリアウ諸島で浚渫されたものだった [27]。「インドネシア・ビジネス・ポスト」は、禁輸前における輸出量を年間約2億5000万立方メートルとしている [42]。2003年にインドネシアが輸出を停止すると、シンガポールはカンボジア、ベトナム、マレーシアに目を向けた。2018年には、シンガポールはマレーシアから3億4700万ドル相当、5900万トンの砂を輸入した。これは同年における砂輸入全体の97%にあたる。その後、マレーシアは2018年10月から海砂の輸出を禁止した ◈ 強力な証拠 [43]。
取引の実態を最も雄弁に物語るのは、鏡像統計である。輸出国が送ったと申告する量と、輸入国が受け取ったと申告する量を突き合わせる手法である。『オーシャノグラフィー』誌の総説が調べた20年間に、シンガポールの貿易相手国は同国向けに6億3700万トンの砂を輸出したと報告した。一方、シンガポールが記録した輸入量は5億1700万トンであり、差は約1億2000万トンに達する [3]。カンボジアの場合、食い違いは逆方向に生じており、比率で見ればさらに大きい。2007年から2017年までに、カンボジアがシンガポール向けに輸出したと報告した砂は約1600万トンであった。ところがシンガポールは、カンボジアから7200万トンを輸入したと報告している ✓ 確認済み事実 [44]。これほどの差は、端数処理や報告の遅れでは説明できない。この10年間にカンボジアからシンガポールへ渡った砂の大半が、カンボジア側の輸出記録にまったく現れていなかったことを意味する。
禁止措置は取引を終わらせたというより、場所を移し、時折再開させてきたにすぎない。2023年5月、インドネシアのジョコ・ウィドド(Widodo)大統領は政令2023年第26号に署名し、20年にわたる禁止を経て海砂の輸出を再開させた。名目は堆積物の管理であった ✓ 確認済み事実 [42]。環境団体はただちに反発した。2025年半ばまでに、モンガベイは118社が計13万1157ヘクタールに及ぶ141件の浚渫権を保有し、国内需要は許可量のわずか2.4%にすぎないと報じた [29]。ジャカルタのシンクタンクCELIOSは、輸出によって国庫に入る収入を約1090万ドル、企業の利益を約3210万ドルと推計した。これに対し、漁業者が被る損失は約7740万ドルにのぼるとした [29]。2025年6月26日、インドネシア最高裁判所は同政令における輸出関連規定を無効とした。商業目的の政策が、沿岸と海洋の環境を守るという政府の責務をおろそかにしたとの判断である [45]。
カンボジアの恒久的禁止も、同じように抜け穴だらけであることが明らかになった。2026年8月、モンガベイは、2026年6月1日から7月26日までに4隻のばら積み船がコッコン州からシンガポールにあるトゥアス埋め立て地へ航行したことを突き止めた。州の鉱業担当官は記者団に対し、禁止はすでに解除されたと語った。一方、シンガポール国家開発省と海事港湾庁は質問に回答しなかった ◈ 強力な証拠 [46]。禁止、再開、調査をたどる年表からは、規制当局よりも速く適応する地域市場の姿が浮かび上がる。
各国の立場を比べると、この仕組みにおける位置づけがいかに異なるかがわかる。安定した域内供給に成長を委ねる純輸入国がある一方で、河川や海岸が環境負荷を引き受ける生産国もある。その対照は際立っている。
- シンガポール:完全な輸入依存。20年間で5億1700万トンを輸入し、1人あたり5.4トン [3]
- インドネシア:かつての主要供給国。2003年から輸出禁止、2023年に再開、2025年に規定が無効化 [42] [45]
- ベトナム:2024年に主要交通事業16件で計2600万立方メートルの砂が不足し、現在は道路盛土への海砂利用を試験中 [51]
- 中国:1995年から2020年にかけて、供給に占める天然砂は約80%から21%に低下し、人工砂が主役となった [12]
- インド:需要は2000年から2017年に3倍となった。2016年から国の指針が施行されているが、違法採取は根強く続く [36] [48]
- 米国:2025年に6500か所の採取場から建設用の砂と砂利8億7000万トンを生産し、ほぼすべてを国内で消費 [8]
急成長する生産国が直面する板挟みを、ベトナムがよく示している。高速道路の整備計画は、細りゆく河川からの供給と衝突した。VnEconomyは2024年5月、主要交通事業16件で計2600万立方メートルの砂が不足していると報じた。当局は代替の盛土材として、ソクチャン沖で確認された1億4500万立方メートルの海砂に目を向けている ◈ 強力な証拠 [51]。かつてシンガポールに砂を輸出していた国が、いまや砂を奪い合う側に回っている。この逆転は、地域全体の力学を端的に表している。ある国が禁止すれば需要は隣国へ向かい、最終的には、最も安く残る供給源が違法か沖合にあるか、あるいはその両方となる。鏡像貿易統計における食い違いは、域内取引のかなりの部分が公式記録から漏れていることを示す、現時点で最も厳密な証拠である。
代替材にできること、できないこと
人工砂、鉱石砂、再生骨材
中国はすでに天然砂の大半を置き換えた。2020年には、河川や湖で採れる砂が供給に占める割合は約21%にとどまり、1995年における約80%から大きく下がった ✓ 確認済み事実 [12]。代替は大規模に機能している。ただし、問題を消し去るのではなく、問題の形を変えるにとどまる。
砂の代替について最も重要な事実は、それがすでに進行しており、しかもその規模が大半の政策論議をはるかにしのぐという点である。ワン(Wang)らが2024年に『ネイチャー・ジオサイエンス』誌で発表した研究によれば、中国における砂供給に天然砂が占める割合は1995年に約80%だったが、2020年には約21%に低下した。この間、供給全体は約400%増えた。天然砂の供給量自体も、2010年から2020年にかけてほぼ半減している ✓ 確認済み事実 [12]。これに取って代わったのが人工砂である。岩石を砕き、コンクリートに必要な粒径に加工したものである。中国の転換は必要に迫られたものであった。2001年に長江で規制が敷かれると、浚渫船は鄱陽湖へ移った。2005年から2006年には、同湖から年間約2億3600万立方メートル、全国需要の約9%が採取されていた。その後、2008年に湖での浚渫が禁止され、業界は採石場へと押しやられた [47]。インドも州単位で同様の道をたどっている。カルナータカ州では人工砂の工場164か所が年間約2000万トンを生産し、州内需要の約78%を賄っていると報告された。タミル・ナードゥ州は2023年、専用の「M-Sand政策」を採用した ◈ 強力な証拠 [52]。
人工砂は河床の問題を解決するが、採取の問題は解決しない。人工砂も結局は採石された岩石であり、新たな採石場、発破、粉塵、そして破砕に要するエネルギーを伴う。砕いた砂は、コンクリートに使う際の作業性が劣ることもある。角ばって薄片状の粒子や微粉分が多いため、より多くの水や混和剤を必要とするからである。この転換は環境への圧力を河川や海岸から山腹へと移すにすぎず、しかも安く済むのは採石場が需要地に近い場合に限られる。だからこそ最も有望な代替材は、別の目的ですでに採掘された物質を活用するものである。ジュネーブ大学とクイーンズランド大学持続可能鉱物研究所の研究者らは2022年、鉱業が毎年300億〜600億トンの廃石と尾鉱を生み出していると推計した。これは世界全体における砂需要に匹敵する量である [50]。
彼らが提案する「鉱石砂」とは、鉱物処理の過程で、尾鉱になる前に砂状の成分を分離するというものである。同研究は、鉱石砂によって中国における砂需要のうち約10億トンを置き換えられると推計した。さらに、鉱山のほぼ3か所に1か所が需要地から50キロメートル以内で鉱石砂を供給でき、各鉱山で発生する尾鉱は少なくとも10%減るとしている ◈ 強力な証拠 [50]。研究対象となったブルクトゥ鉱山を持つブラジルの鉱業大手Valeは、2022年に販売と寄付を通じて約100万トンの鉱石砂を出荷した [53]。主な代替材と、確認されているそれぞれの限界は次のとおりである。
- 砕石による人工砂:現在、中国における供給の約79%を占めるが、採石と破砕にエネルギーを要する [12]
- 鉱業由来の鉱石砂:中国だけで年間約10億トンの潜在量があるが、現状ではValeによる約100万トンにとどまる [50] [53]
- 建設解体廃棄物の再生材:2020年に英国で骨材供給の28%を占めたが、大半は低品位の用途に使われる [54]
- 日本におけるコンクリート再資源化:コンクリート塊の約99%が回収されるが、多くは新たなコンクリートではなく道路の下層路盤材となる [55]
- 砂漠の砂を用いた複合材:フィナイト(Finite)などの試験的素材があるが、現時点では仮設構造物にしか適さない [56]
再生利用は、政策文書で最も頻繁に挙げられる代替策である。そして、その限界が最も過小評価されている代替策でもある。欧州連合(EU)は、2022年における建設解体廃棄物の再資源化率を79.8%と報告しており、目標の70%を余裕をもって上回っている ✓ 確認済み事実 [57]。しかしこの指標には埋め戻し、つまり砕いたがれきで穴を埋める処理が含まれる。これは最も付加価値の低い再資源化であり、コンクリートに使われるバージン砂を置き換える効果はほとんどない [57]。欧州の先進国とされることの多い英国は、2020年に骨材の約28%、約6200万トンを再生材と二次材から調達した [54]。英国鉱物製品協会(MPA)のナイジェル・ジャクソン(Jackson)最高経営責任者は2022年、長期的にも建設需要の約70%は一次骨材で賄う必要があると主張した [54]。日本は2000年に制定された建設リサイクル法の下でコンクリート回収率を約99%まで高めたが、その再生材は主に道路の下層路盤に回っている [55]。
再生利用には構造的な上限があり、それは算術で決まる。成長する経済は、取り壊すよりはるかに多くを建てる。したがって再生できるがれきの蓄えは、新たな骨材の需要を常に下回る。人口が安定し、建物が老朽化しつつある成熟経済では、再生材が相当な割合を担いうる。しかしラゴス、ダッカ、ハノイのように、2050年に存在する建物の大半がまだ建てられていない都市では、再生利用は需要にとても追いつかない。そこでUNEPの2022年提言は、代替と並んで削減を掲げている。コンクリート使用量を抑えた建物を設計すること、既存建築物を長く使うこと、性能が許す範囲で代替素材を用いることである [2]。最も効果的に節約できる砂とは、最初から仕様に盛り込まれない砂である。
どの代替材も、環境への圧力をどこか別の場所へ移す。人工砂は河川から採石場へ、鉱石砂は鉱業が今後も大規模に続くことを前提とし、再生利用は解体に依存する。いずれも根本的な要因、すなわち新規建設量そのものには手をつけていない。代替は必要だが、それだけでは不十分である。
技術的な可能性と市場の現実との間には、ガバナンス上の溝もある。人工砂や鉱石砂が競う相手は、環境負荷が価格に反映されないために割安となりがちな天然砂である。さらに、採掘料も税も一切払わない違法な砂とも競わなければならない。河川からの採取が安いままであれば、破砕機、処理工場、品質試験制度に投資する動機は弱い。インドの経験は示唆に富む。人工砂への移行が最も速かった州は、河川採掘への取り締まりが価格シグナルを生んだ州であった。言い換えれば、代替は主として材料科学の問題ではない。価格設定と取り締まりの問題であり、材料科学はすでにその一部を解決しているのである。
世界的な砂危機が存在するという見方は、3つの柱に支えられている。第1に、採取が自然の補充を上回っている。海洋浚渫だけで年間約60億トンが除去されているのに対し、沿岸が必要とする堆積物は100億〜160億トンである [16]。メコン川の研究は、採取が自然流下量の数倍に達していることを示している [17] [18]。第2に、需要は増え続けている。UNEPは、建築部門における砂需要が2060年までに45%増えると予測する [1]。第3に、被害が構造的である。三角州、海岸、漁業、人間の安全保障にまたがり、数十か国に及んでいる。UNEPの2026年版報告書は、砂の問題を公正の問題と位置づけている。採取の代償は川岸の共同体や漁業者に降りかかる一方、その恩恵は遠く離れた建設市場に流れ込むからである ◈ 強力な証拠 [9]。
懐疑的な立場は、単純な否定よりも含みがある。一部の地質学者や業界の論者は、世界的な不足という物語は2013年のドキュメンタリー『サンド・ウォーズ』から生まれたもので、局地的な問題と地球規模の枯渇を混同していると主張する。米国の地質学者マーク・クルーメナカー(Krumenacher)は、世界的な不足を「神話」と呼んでいる ⚖ 議論あり [19]。土台となるデータも、見出しの数字が示唆するほど強固ではない。UNEPが2014年に示した400億トン超という推計は、2012年におけるセメント生産量37億トンから導かれたもので、控えめな数字であると明記されていた [4]。学術的な総説も、骨材採取に関する信頼できるデータは不足しており、推計はセメントを代理指標としていると指摘している [41]。両者の立場を並べると、次のようになる。
世界的危機とみる立場
年間60億トンの海洋浚渫に対し、海岸の維持には100億〜160億トンが必要とされる [16]。
砂需要は1970年から2020年に5倍となり、建築部門による需要は2060年までに45%増えると予測される [1]。
両陣営の見解は、見かけ以上に一致している。特定の河川、三角州、海岸線が持続不可能な形で採掘されていることに異を唱える者はいない。砕石の供給が地質的に制約されていると主張する者もいない。真の対立は問題の捉え方にあり、したがって政策にある。危機が世界的なものであれば、対応には国際基準、貿易監視、需要削減が含まれなければならない。局地的な希少性の集合であれば、対応は主に国内のものとなる。許認可の改善、取り締まり、そして人工砂への投資である ⚖ 議論あり [2] [8]。本報告が集めた証拠によれば、局地的な捉え方は原因については正確だが、規模については誤解を招く。同じ局地的な失敗がいまやあまりに多くの場所で繰り返されており、その総和としての影響は地球規模に達しているからである。
第2の争点は、禁止措置が役立つのか、それとも害をなすのかである。インドネシア、カンボジア、マレーシア、ベトナム、タイによる輸出禁止は、環境保護として正当化されてきた [16]。しかし実績を見ると、取り締まりや代替策を伴わない禁止は、採取を近隣国や違法な経路へと押しやりかねない。カンボジアが2009年に定めた一時停止措置は無視された [39]。2017年の恒久的禁止も、2026年までにひそかに覆されたとみられる [46]。インドネシアでは20年続いた禁止が2023年に解除され、その後、裁判所によって部分的に復活した [45]。禁止措置が採取を移転させるのではなく、世界全体での純採取量を減らすという証拠は弱い ⚖ 議論あり。禁止が確実にもたらすのは、誰が代償を払い、誰が利権を手にするかの変化である。
第3の論点は、メコン川に関する数字をどう評価するかである。デルタにおける採取量の推計は、年間約1777万立方メートルという公式数値から、3500万〜5500万立方メートルという独立した評価まで大きくばらつく。デルタ河床の砂が2035年までに枯渇しうるという予測も、今後の採取量や上流からの供給に関する前提に左右される ⚖ 議論あり [18] [24]。しかし、変化の方向について異論はない。公表されたどの推計も、採取量が自然の補充を大きく上回るとしており、川岸の崩壊や河床低下という物理的な証拠は直接観察できる [17]。正確な速度に不確実性があるからといって、この河川系が枯渇しつつあるかどうかが不確実になるわけではない。
以上の証拠を総合すれば、的確な診断が下せる。世界は抽象的な意味で砂を使い果たしつつあるわけではない。河道、三角州、海浜、浅い海底といった特定の鉱床を枯渇させつつあるのである。それらは最も安く採取でき、成長する都市に最も近く、生態系と人間の安全保障にとって最も重要な鉱床である。しかも、その枯渇はほとんど計測されないまま進んでいる。USGSは世界生産量の数字を公表できず [8]、記録された国際取引は市場のごく一部しか捉えておらず [13]、最も広く引用される世界全体での合計値はセメント生産量から導いたモデル推計である [4]。この空白において違法市場が栄え、インドやケニアなどでは暴力が記録されている [32] [38]。国連システムは問題を認識しているが、国際的な対応はなお手薄である。2019年のUNEA決議4/19はこの問題に留意した [49]。2024年の第6回国連環境総会(UNEA-6)では、砂採取に関するUNEPの権限を強化するはずだった文案が、最終文書から削除された ◈ 強力な証拠 [58]。
この統治の空白から生じるリスクは、深刻度と、それを裏付ける証拠の強さによって順位づけできる。
| リスク | 深刻度 | 評価 |
|---|---|---|
| 三角州における地盤沈下と土地喪失 | 平均標高0.8メートルのメコン・デルタで、採取が自然流下量を数倍上回っており、恒久的な土地喪失が懸念される [18] [17]。 | |
| 暴力と組織犯罪 | インドでは公務員、記者、村民の殺害が記録され、ケニアでは国家に守られたカルテルが存在する [35] [38]。 | |
| 海洋生息域と漁業への打撃 | 年間60億トンにのぼる浚渫は、うち15%が保護区内で行われ、23億人を支える漁場と重なっている [14] [1]。 | |
| データの盲点 | 信頼できる世界生産量の統計がなく、鏡像貿易統計にも大きな食い違いがあるため、実効的な規制が阻まれている [8] [44]。 | |
| 低付加価値にとどまる代替 | 再生利用は埋め戻しや下層路盤に集中しており、成長経済では解体量が少なすぎて需給差を埋められない [57] [55]。 |
研究から浮かび上がる政策課題は、奇抜なものでも、とりわけ費用がかさむものでもない。その要素の大半は、UNEPの2022年提言や、インドが2016年と2020年に定めた規則といった国内指針にすでに盛り込まれている [2] [48]。欠けていたのは、実行、データ、そして政治的意思である。証拠は5つの優先事項を指し示している。
- 採取を計測する:砂と砂利に関する国別台帳を整え、マリン・サンド・ウォッチを土台に海洋浚渫を世界規模で追跡する [16]
- 活動中の自然系を守る:UNEPの提言どおり、海浜、活動中の河道、海洋保護区での採取をやめる [2] [14]
- 外部費用を価格に反映させる:川岸の共同体、漁業、公共インフラが負う代償を反映した採掘料と許可制度を設ける [37]
- 代替材を拡大する:中国やカルナータカ州にならい、採石場や鉱山が需要地に近い場所で人工砂と鉱石砂を普及させる [12] [50]
- 取引を追跡する:鏡像貿易統計の照合と船舶追跡によって、輸出禁止に反する出荷を明るみに出す [46] [3]
需要削減も、同じ一覧に加えるべきである。2026年版UNEP報告書は、砂需要の増加を、1人あたり市街地面積が半世紀で43平方メートルから63平方メートルに広がったことと結びつけている [1]。建物を長く使い、既存の構造物を再利用し、1平方メートルあたりのコンクリート使用量を減らす政策は、砂需要を源から減らす。しかも、禁止措置につきまとう「漏出」の問題を伴わない。同様に、物質の採掘が温暖化をもたらす排出量で約60%を占めるという国際資源パネルの知見は、砂政策と気候政策が実際には同じ課題であることを意味する [7]。回避されたコンクリート1トンは、川に残された砂1トンであると同時に、排出されずに済んだセメント由来の温室効果ガスでもある。
砂は、世界的に重要でありながら局地的にしか、あるいはまったく統治されていない資源の最も明瞭な例である。1トンあたりの価値が低いため市場は地域にとどまり、総量が膨大であるため影響は地球規模に及ぶ。採取が計測され、河川や海岸、共同体が負う代償が価格に反映されるまで、砂ギャップは枯渇と犯罪によって埋められ続けるだろう。
したがって砂危機とは、希少性の物語というより、不可視性の物語である。地球上で都市も道路も風力発電所も支えている素材が、無償で無限であり、統計に載せるまでもないものとして扱われてきた。その帰結はすでに計測できる。侵食されるメコンの川岸に、リアウ諸島で消えた26の島に、ドウロ川での橋の崩落に、そしてビハール州で溺れた子どもたちに表れている [18] [27] [30] [33]。対応する手段は存在する。衛星と船舶による追跡、人工砂と鉱石砂、実効性のある許可制度、そして需要削減である。残る問いは、最も脆弱な鉱床が失われる前に、各国政府がこの資源を数え始めるかどうかである。現時点での証拠を見る限り、数えるという作業はまだ始まったばかりである。