OECD加盟国では2050年、現役世代100人に対し65歳以上が52人となる。日本の高年齢者雇用安定法と継続雇用、韓国の定年延長、デンマークの70歳年金、ドイツのアクティブ年金まで、就労延長の効果と限界を健康格差と年齢差別の証拠から検証する。
縮む労働力という算術
豊かな社会はなぜ、静かに「働き続けること」を求めるのか
経済協力開発機構(OECD)加盟国では2025年、生産年齢人口100人に対し65歳以上が33人いた。2050年には52人に達する[1]。長く働くことは、もはや一部で論じられる生き方の選択ではない。ほぼすべての先進国が財政運営の前提に据える既定路線である✓ 確認済み事実。
本報告書が検証する問いに短く答えるなら、こうなる。就労の長期化はすでに進行しており、経済的な価値も大きい。しかし、その機会は政府が想定するほど均等には開かれていない。OECD全体では、60〜64歳の就業率が21.8ポイント上昇し、2024年に56.5%に達した[2]。日本では65〜69歳の53.6%が働いている[3]✓ 確認済み事実。とはいえ、60代後半まで働けるかどうかを決めるのは誕生日ではない。健康、学歴、職種、そして採用担当者の偏見である。年金支給開始年齢を一律に引き上げる政策は、人口変動の負担を、最も担う力の弱い人々に転嫁することになる。以下では、この主張を構成する各要素について証拠を示す。人口の算術、経済効果、差別に関するデータ、健康と技能の制約、そして日本、韓国、シンガポール、デンマーク、ドイツなど、高齢化で先行した国々が得た教訓である。
まずは算術から始めたい。数字は容赦がないからである。OECDの『図表でみる世界の年金2025』は、加盟国の生産年齢人口が今後40年間で13%減少すると予測する。日本、韓国、イタリア、スペイン、ギリシャ、ポーランド、スロバキア、バルト三国では、減少幅は30%を超える[1]✓ 確認済み事実。韓国の老年人口指数は50ポイント近く上昇する見通しである[1]。韓国統計庁の推計では、総人口は5200万人から2072年には3620万人へと縮小する。その時点で住民の47.7%が65歳以上となり、従属人口指数は42.5から118.5へ跳ね上がる[4]✓ 確認済み事実。つまり2070年代初頭の韓国では、生産年齢人口よりも扶養される人口のほうが多くなる。遠い将来の仮定の話ではない。韓国は2024年12月23日、65歳以上が1024万人と人口の20%に達し、正式に超高齢社会となった[5]。
世界全体も、時期は遅れるが同じ曲線をたどる。国連の『世界人口推計2024年版』によれば、世界人口は2080年代半ばに約103億人でピークを迎える。2070年代後半には65歳以上が22億人に達し、18歳未満の子どもを上回る[6]✓ 確認済み事実。中国、ドイツ、日本、ロシアを含む63カ国では、人口はすでに頭打ちとなった。これらの国々の人口は、今後30年間で14%減少すると見込まれる[7]。欧州と日本で始まった人口転換は、いまや中所得国にも及んでいる。中国が2024年9月、1950年代以来初めて法定退職年齢の引き上げを立法化したのはこのためである[8]。縮小する社会が生産と財政を安定させる手段は三つしかない。海外からの労働者を増やすか、1人あたりの生産性を高めるか、1人あたりの就労年数を延ばすかである。多くの政府はいまや三つすべてを動員している。しかし、法律に書き込まれるのは三つ目である。
三つ目の手段は、すでに法制化された退職年齢に表れている。OECDの「標準退職年齢」とは、完全な職業経歴を経て満額の年金を受給できる年齢を指す。2024年に退職した人では男性64.7歳、女性63.9歳であった。2024年に労働市場に参入した人では、男性66.4歳、女性65.9歳に達する見通しである[9]✓ 確認済み事実。さらに踏み込む国もある。デンマーク、エストニア、イタリアは年金支給開始年齢を平均余命に連動させている。このためOECDは、将来の標準退職年齢をデンマーク74歳、エストニア71歳、イタリア70歳と予測する[10]。それでもOECDの試算では、法定の引き上げが相殺するのは、65歳時平均余命の伸びの4割強にすぎない。男性の65歳時平均余命は18.5年から22.7年へ延びる見通しである[10]◈ 強力な証拠。言い換えれば、退職生活は始まりが遅くなっても、なお長くなり続ける。
OECDのマティアス・コーマン(M. Cormann)事務総長は、2025年版報告書の発表に際し、問題を意図的に構造的な言葉で語った。人口高齢化はOECD諸国に共通する重要な構造的課題であり、経済、財政、社会に重大な影響を及ぼす、というのである[1]。最も数量化しやすいのは財政面である。英国では、英予算責任局(OBR)が試算を示している。国家年金の支給開始年齢を66歳から67歳へ引き上げ、2026〜2028年に段階実施すると、2029〜30年度の借入額は105億ポンド減少する。その大半は、年金を受給する66歳が約82万人減ることによる[11]✓ 確認済み事実。年金支給開始年齢を1歳引き上げるたびに、予算上は即効性のある大きな節約が生まれる。だからこそ、この手段が好んで選ばれるのである。
経済面はもっと難しい。年金支給開始年齢は合図にすぎず、それ自体が仕事や健康な体、雇う意思のある雇用主を生み出すわけではないからである。国際通貨基金(IMF)は2025年4月の『世界経済見通し』でこの点を率直に指摘した。高齢労働者が身体的・認知的に働き続けられなければ、法定退職年齢を引き上げても、実際の引退年齢に期待した効果は表れない可能性がある、と警告したのである[12]✓ 確認済み事実。法定年齢と、人々が実際に働くのをやめる年齢。その隔たりにこそ、政策上の本当の問いがある。以下の各章はこの隔たりを検証する。すでに長く働いているのは誰か。その価値はどれほどか。誰が締め出されているのか。そして最も高齢化した労働力を抱える国々は、隔たりを埋める方法について何を学んだのか。
長く働く社会はすでに到来している
高齢者就業、静かな記録更新
先進国の大半で、高齢者の就業率は過去最高の水準にある。2024年のOECDの就業率は、55〜59歳で75.7%、60〜64歳で56.5%に達した[2]。ただし、平均値の陰には国ごとに大きく異なる段階がある✓ 確認済み事実。
大きな流れは、世間の議論が示唆するよりも力強い。OECDによれば、2024年の55〜59歳の就業率は17.1ポイント上昇して75.7%、60〜64歳は21.8ポイント上昇して56.5%となった[2]✓ 確認済み事実。65〜69歳のOECD平均就業率は26.4%に達した[13]。欧州連合(EU)では、55〜64歳の就業率が2024年に過去最高の65.2%を記録した[14]◈ 強力な証拠。長く模範とされてきたスウェーデンは同じ年齢層で約78.1%、ドイツは75.15%に達した[15] [16]✓ 確認済み事実。男女とも退職年齢が67歳のデンマーク、アイスランド、オランダ、ノルウェーは、60〜64歳の就業率が最も高い国々に含まれる[2]。つまり年金支給開始年齢は、単なる財政上の変数ではない。人々と雇用主が職業生活の終わりをいつと見込むか、その基準点となるのである。
日本は分布の最先端に位置する。2024年、65歳以上の就業者数は過去最多の930万人となり、21年連続で増加した[3]✓ 確認済み事実。就業率は65〜69歳で53.6%、70〜74歳で35.1%、75歳以上で12.0%と、いずれも過去最高を更新した。65歳以上全体では25.7%である[3]。10年余り前の2013年には、65〜69歳で働いていたのは38.7%にすぎなかった[17]。高齢者はいまや日本の人口の29.4%を占める[3]。日本は事実上、大半の人が60代後半まで働き続けることを前提に、労働市場を組み替えてきた。もっとも、第6章で見るように、この組み替えは賃金と仕事の質という代償を伴っている。
米国の姿は異なる。65歳以上の米国人の労働参加率は2025年に19.1%と、ほぼ5人に1人に達した。2000年の12.9%からは上昇したが、2019年の20.2%は下回る[18]✓ 確認済み事実。セントルイス連邦準備銀行によれば、パンデミックは「過剰退職」を生んだ。コロナ前の傾向から予測されるよりも約240万人多くの米国人が退職し、その差は2022年末に約280万人でピークに達した[19]。しかし2024年末から2025年初めにかけて、過剰退職の割合はゼロを下回った。セントルイス連銀は、増加の大部分は、労働市場の状況と政府の給付金で説明できると結論づけた[20]◈ 強力な証拠。最も伸びているのは最高齢層である。75歳以上の労働者は2023年に米国の労働力の1.2%を占め、2033年には2.1%に達すると予測されている[21]。
英国は逆のリスクを示す。年金政策が高齢者を労働へ押し出すよりも速く、健康悪化が彼らを労働から引き離すというリスクである。英国家統計局(ONS)によれば、2023年に長期疾病を理由とする非労働力人口は250万人を超え、パンデミック以降40万人以上増えた[22]✓ 確認済み事実。50〜64歳の非労働力人口のうち46%が五つ以上の健康問題を抱えており、2019年の41%から上昇した[22]。英国は2026年5月から2028年3月にかけて国家年金の支給開始年齢を66歳から67歳へ引き上げる。2025年7月に始まった3回目の法定見直しでは、68歳への引き上げが検討されている[23]。英国の事例は、就業率と年金支給開始年齢を切り離して読めない理由を示している。健康の裏付けを欠いたまま支給開始年齢を引き上げても、労働者は増えない。増えるのは、遠のいた年金を低い所得で待ち続ける人々である。
各国データからは三つのパターンが浮かび上がる。第一に、高齢者の就業は年金支給開始年齢そのものに強く反応する。給付の開始年齢が上がると、その直前の年齢層で就業が増える。第3章で取り上げる英国の証拠がそれを示している。第二に、60〜64歳の就業率が最も高い国々は、遅い支給開始年齢に、堅調な労働市場、柔軟な働き方、活発な成人学習制度を組み合わせている。日本型ではなく、北欧型である。第三に、恩恵は健康で学歴の高い層に集中している。以下では、これらのパターンを一つずつ証拠に照らして検証する。まずは、長く働くことが実際にどれほどの価値を持つのかから始める。
長く働くことの価値
成長、財政、そして「衰える高齢労働者」という神話
IMFは、より健康な高齢化が2025〜2050年に世界の成長率を年約0.4ポイント押し上げると推計する[12]。その恩恵は確かに存在する。問題は、年金支給開始年齢だけでそのうちどれだけを取り込めるかにある◈ 強力な証拠。
近年この議論に最も重要な貢献をしたのは、IMFが2025年4月の『世界経済見通し』でシルバー経済を扱った章である。先進国・新興国41カ国のデータを分析した結果、2022年に70歳だった人は、平均して2000年の53歳と同等の認知能力を持つことがわかった[12]✓ 確認済み事実。身体的な虚弱さでも同様の改善が見られ、2022年の70歳は2000年の56歳に相当した[12]。同章はさらに、こうした健康の改善を行動と結びつけた。認知能力が10年分改善すると、労働市場にとどまる確率は約20ポイント高まり、週の労働時間は約6時間増え、就業者の所得は30%高くなるという[12]◈ 強力な証拠。IMFがこの結果を要約するために選んだ「70代は新たな50代」という言葉は、その後広く引用された。ただし、添えられた留保が省かれることも多い。
高齢労働者が身体的・認知的に働き続けられない場合や、年齢とともに生産性が急速に低下する場合には、法定退職年齢を引き上げても、実際の引退年齢に期待した効果が表れない可能性がある。
— 国際通貨基金『世界経済見通し』第2章、2025年4月[12]マクロ経済上の影響は大きい。IMFの推計では、世界の成長率は2016〜18年平均を約1.1ポイント下回る見通しである。減速分のほぼ4分の3は、人口動態の変化によるものだという。より健康な高齢化による押し上げがなければ、下振れ幅は1.5ポイントになる[12]◈ 強力な証拠。民間の先行推計も同じ方向を示す。PwCの「ゴールデン・エイジ指数」は2018年、OECD全体で55歳以上の就業率をスウェーデン並みに引き上げれば、OECDの長期的なGDPが約3兆5000億ドル増えると試算した[24]◈ 強力な証拠。こうした数字は、誰がどの程度の生産性で働けるかという前提に左右される。予測ではなく、規模の目安として扱うべきである。それでも方向性は一致している。高齢化する経済では、55歳以上の就業率が、1人あたり生産を最も大きく左右する要因に数えられる。
財政面の証拠はさらに強固である。実際の改革に基づいているからだ。英国が女性の国家年金支給開始年齢を60歳から61歳へ引き上げた際、英財政研究所(IFS)は、60歳女性の就業率が7.3ポイント上昇したことを確認した。約2万7000人の女性が新たに就業した計算である。夫の就業率も4.2ポイント上昇し、財政は約21億ポンド改善した[25]✓ 確認済み事実。IFSのエコノミスト、ジョナサン・クリブ(J. Cribb)は、効果の大きさから見て、純粋な金銭的誘因以外の要因が働いていると指摘した。年金支給開始年齢は社会規範として、つまり就労をやめるべき時期を示す合図として機能するというのである[25]。この合図の効果こそが、支給開始年齢改革を強力な手段にしている。そして同時に、粗い手段にもしている。
英財政研究所の研究によれば、女性の国家年金支給開始年齢を60歳から61歳に引き上げた結果、約2万7000人の女性が新たに就業した。夫の就業率も4.2ポイント上昇し、財政は約21億ポンド改善した[25]。反応は金銭的誘因だけで予測される規模を上回っており、支給開始年齢が仕事を終える時期についての社会規範として作用していることを示唆する。
長く働くことを阻む最も根強い障害は、高齢労働者は生産性が低いという思い込みである。しかし、最も信頼できるミクロの証拠はこれを支持しない。アクセル・ベルシュ=ズーパン(A. Börsch-Supan)とマティアス・ヴァイス(M. Weiss)は、大手自動車メーカーの組立ラインで作業チームが犯したミスを調べた。生産性の低い労働者ほど離職しやすいという偏りを補正したうえで、大規模製造業の典型であるこの工場では、少なくとも60歳までは生産性が低下しないことを見いだした[26]◈ 強力な証拠。高齢労働者のミスはわずかに多かったが、重大なミスははるかに少なかった。経験を通じて、どのミスが重要かを学んでいたからである。組立ラインでは、蓄積された判断力が身体的な速度の低下を補っていた。この結果は、管理職の予想に反するからこそ、高齢化の経済学で最も引用される知見の一つとなった。
経済全体の水準で見ると、構図はより複雑である⚖ 議論あり。ニコール・マエスタス(N. Maestas)、キャスリーン・マレン(K. Mullen)、デービッド・パウエル(D. Powell)は、60歳以上の人口比率が10%上昇すると、1人あたりGDPの成長率が5.5%低下すると推計した。効果のおよそ3分の2は、労働者数の減少ではなく、労働生産性の伸び悩みに起因するという[27]。この知見は、個々の高齢労働者の生産性が低いことを示すものではない。新技術の導入の遅れ、投資の減少、高齢化地域における需要構造の変化を反映している可能性もある。それでも、職業生活が長くなれば自動的に生産的になると考えるのは危険だという警告にはなる。二つの研究と整合する解釈はこうである。高齢労働者は経験を生かせる仕事では生産性を保つ。そして技能と健康への投資を怠る経済は、得られるはずの利益の多くを取り逃がす。
年金支給開始年齢改革の最も強い効果は、金銭的誘因の変化からではなく、労働者、配偶者、雇用主それぞれの期待の変化から生じる[25]。改革が就業をすばやく動かすのはこのためである。そして、健康と仕事の面ですでに対応できる人々の間で最も大きく動かすのも、同じ理由による。合図によって不健康な労働者が健康になるわけではない。雇う気のない雇用主が雇う気になるわけでもない。
差別という壁
年金制度が必要とする労働者を、労働市場はなぜ求めないのか
4万件を超える求人応募を用いたフィールド実験で、経済学者たちは高齢女性、とりわけ退職年齢に近い女性に対する採用差別の確かな証拠を見いだした[28]。政府は人々に長く働くよう求めながら、その人々を組織的にふるい落とす労働市場で働かせようとしている✓ 確認済み事実。
年齢差別に関する最も強力な証拠は、フィールド実験から得られる。研究者が、年齢だけが異なる架空の応募書類を対にして雇用主に送る手法である。最大規模の実験は、デービッド・ニューマーク(D. Neumark)、イアン・バーン(I. Burn)、パトリック・バトン(P. Button)によるもので、米国12都市の4職種に4万件以上の応募を送った[28]✓ 確認済み事実。先行研究を悩ませてきた偏りを補正した結果、高齢女性、特に退職年齢に近い女性に対する明確な差別が確認された。高齢男性に対しても、弱いながら差別の証拠が見られた[28]。ニューマークは2019年、この傾向を端的に要約した。高齢の応募者が有利になることはなく、不利になることが多い。女性は40代から年齢差別に直面する、というのである[29]。マグヌス・カールソン(M. Carlsson)とステファン・エリクソン(S. Eriksson)によるスウェーデンの実験は、35〜70歳の応募者について6000件以上の応募を用いた。その結果、面接への呼び出し率はおよそ40歳から大きく下がり、その低下は男性よりも女性で急であった[30]✓ 確認済み事実。
女性に対する年齢差別の証拠は、どの研究でもいわば必ず浮かび上がってくる。
— デービッド・ニューマーク、カリフォルニア大学アーバイン校経済学特別教授、2019年6月[29]雇用主の考え方が、この結果を説明する手がかりとなる。スウェーデンの実験では、後に調査を受けた雇用主が、高齢の応募者について新しい業務を覚える力、適応力、意欲に関する固定観念を挙げた[30]。労働者の側も同じ傾向を認識している。全米退職者協会(AARP)の2026年調査によれば、50歳以上の米国労働者の64%が職場で年齢差別を目撃または経験した。黒人労働者では74%、女性では67%に上る[31]✓ 確認済み事実。約90%が年齢差別はよくあることだと考えており、33%はテクノロジーに不慣れだと決めつけられた経験があると答えた[32]。2025年に転職を予定していた50歳以上のうち、74%は年齢が採用の妨げになりうると考えていた[33]。
正式な申し立ては、問題の目に見える一部にすぎない。法律事務所セイファース(Seyfarth)の分析によれば、米雇用機会均等委員会(EEOC)が2024会計年度に雇用における年齢差別禁止法(ADEA)に基づいて受理した年齢差別の申し立ては1万6223件で、前年度比9.2%増であった。一方、EEOC自身が起こした年齢差別訴訟は7件にとどまった[34]◈ 強力な証拠。年齢差別の立証は難しいことで知られる。文書の形で痕跡が残ることがまれだからである。候補者は「経験過剰」と評され、チームには「新しい活力」が必要だとされ、組織再編ではなぜか最年長の社員が外れる。AARPのカーリー・ロシュコウスキー(C. Roszkowski)は2025年1月、その帰結をこう述べた。多くの高齢労働者が年齢差別に直面し、資格を満たす仕事でも見過ごされがちである。専門性、成熟、視野の広さをもたらす存在であるにもかかわらず、と[33]。
各国政府は、高齢者が仕事を見つけられることを前提に年金支給開始年齢を引き上げている。ところがフィールド実験は、雇用主が40代以降の応募者をふるい落としていることを示す[28] [30]。両者がぶつかる場所で生じるのは、職業生活の延長ではない。最後の職を離れてから年金を受け取り始めるまでの空白が長くなるだけである。その空白を埋めるのは、貯蓄、障害給付、あるいは貧困である。
代償は個人だけのものではない。世界保健機関(WHO)が2021年3月に国連の他の3機関と共同で公表した『エイジズムに関するグローバル報告書』は、世界の2人に1人が高齢者に対してエイジズム的な態度をとっていると指摘した[35]✓ 確認済み事実。同報告書は、エイジズムが米国で1年間に630億ドルの過剰な医療支出を生んだと推計した。また、55歳以上のオーストラリア人の就業を5%増やせば、同国経済に年480億豪ドルの価値をもたらすと試算した[35]◈ 強力な証拠。WHOのテドロス・アダノム・ゲブレイエスス(T. A. Ghebreyesus)事務局長は、年齢に基づく固定観念や偏見、差別によって、世界中の人々が健康、幸福、尊厳を確保する機会を狭めることがあってはならないと警告した[35]。
差別には、そう呼ばれることの少ない制度的な形もある。賃金に組み込まれた年齢による割引である。日本では、高年齢者雇用安定法により、企業は65歳までの雇用確保を義務づけられている。さらに、70歳までの就業機会確保の努力義務も課されている。それでも、定年後の継続雇用では大幅な賃下げが一般的である。定年後の賃金を定年前の8割超に維持している企業は39.6%にとどまる。つまり約6割の企業が、同一または類似の仕事に対して賃金を2割以上削減していることになる[36]✓ 確認済み事実。韓国でも60歳の定年制が同様の崖を生んでいる[37]。こうした制度は高齢者を職にとどめる。しかし、その条件は、ほかの集団に適用されれば差別とみなされる性質のものである。雇用主は、この代償と引き換えに、高齢者を雇い続ける義務を受け入れてきたのである。
健康と技能の制約
67歳まで実際に働けるのは誰か、働けないのは誰か
イングランドでは、最も貧しい地域の男性の健康寿命は51.1年にとどまり、最も豊かな地域の70.1年を大きく下回る[38]。両者に同じ年金支給開始年齢を適用することは中立ではない。実質的には所得移転である✓ 確認済み事実。
長く働くべきだという主張は、寿命が延びれば健康な期間も延びるという前提に立つ。平均的にはおおむね正しい。しかし平均の陰には非常に大きな格差がある。WHOの『世界保健統計2024』によれば、2021年の世界の平均寿命は71.4歳、健康寿命は61.9歳であった。人は平均して約9.5年を健康でない状態で過ごすことになる[39]✓ 確認済み事実。国内の格差は、国家間の格差よりも大きい。英国家統計局によれば、イングランドの男性の健康寿命は、2020〜22年に最も豊かな地域で70.1年、最も貧しい地域で51.1年であった。差は19.0年に及び、女性では19.7年である[38]✓ 確認済み事実。したがって、イングランドの最貧地域の男性は、国家年金の支給開始年齢に達する15年以上前に健康を失うと見込まれる。
所得による寿命格差は、米国でも同様に際立つ。ラージ・チェティ(R. Chetty)らは税務記録と死亡記録を用い、米国男性の所得上位1%は下位1%より14.6年長く生き、女性では10.1年長く生きることを明らかにした[40]✓ 確認済み事実。格差は拡大している。2001〜2014年に、平均寿命は所得上位5%の男性で2.34年延びたが、下位5%の男性では0.32年にとどまった[40]。OECD23カ国では、高学歴の65歳男性は低学歴の男性より3.6年長く生きると見込まれ、女性ではその差が2.6年である[41]✓ 確認済み事実。年金支給開始年齢の引き上げは、平均寿命の伸びを根拠に正当化される。しかし、その伸びは主に富裕層に集中している。一律の引き上げは、最も恩恵の少なかった人々に最も大きな犠牲を求めることになる。
健康上の制約は、多くの仕事が持つ身体的な性格によってさらに重くなる。66歳の弁護士と66歳の介護職員は同じ年金支給開始年齢に直面するが、週末を迎えたときの体の状態は同じではない。OECDの『雇用見通し2025』は、変化する労働市場における高齢労働者の技能と仕事に、丸ごと1章を割いた。制約は労働者よりも仕事の側にあることが多い、という認識の広がりを反映している[42]。英国では2022年半ば、長期疾病による非労働力人口の55%、約130万人が50〜64歳であった[22]✓ 確認済み事実。この層にとって、年金支給開始年齢の引き上げは就労の増加を意味しない。年金が支給されるまで、疾病給付や障害給付、あるいは貯蓄に頼る期間が長くなることを意味する。
第二の制約は技能であり、これに関するデータは比較的新しい。2024年12月に公表されたOECDの国際成人力調査(PIAAC)2023年調査によると、参加国の成人の平均得点は読解力260、数的思考力263、適応的問題解決能力251であった[43]。55〜65歳はすべての分野で25〜34歳を下回った。読解力の差はOECD平均で30点、韓国で55点、イングランドで26点、米国で17点であった[44]✓ 確認済み事実。OECDは、この差には加齢の影響だけでなく、世代間で教育・訓練の質や量が異なることも反映されうると注意を促している[44]。韓国の格差が際立って大きいことも、この解釈と整合する。同国の高齢世代は、学校教育が大きく拡大する以前に教育を受けたからである。
本来格差を縮めるべき訓練制度が、逆に格差を広げている。2023年に訓練に参加した60〜65歳は約33%にとどまり、25〜44歳の50%超を大きく下回った。職場で学ぶ人の割合も、25〜29歳の62%から60〜65歳では45%に低下する[42]◈ 強力な証拠。OECDの以前のデータでは、職業関連の訓練への参加率は55〜65歳で24%、45〜54歳で41%であった[45]✓ 確認済み事実。雇用主は回収期間が短いとみて高齢の従業員への投資を控え、高齢の従業員も同じ理由で自己投資を控える。しかし、支給開始年齢が67歳や70歳となれば、55歳の労働者には12〜15年の職業生活が残っている。若い従業員の平均勤続年数よりも長い期間である。訓練格差は、55歳が「終わりの始まり」だった時代の名残なのである。
人工知能(AI)は、新たな、しかも両義的な変数を持ち込む。OECDによれば、自動化への曝露は若年労働者で最も高く、年齢とともに急速に低下する。一方、AI全般への曝露は、生涯を通じて逆U字型を描く。また、生成AIの利用は2024〜25年に55〜74歳で最も速く伸びた。もっとも、出発点は低い[46]◈ 強力な証拠。ペンシルベニア大学ウォートン校の年金研究評議会が報じた調査では、50〜64歳の労働者の生成AI利用率は18%で、30代や40代の労働者を大きく下回った[47]。2025年1月には、50歳以上の米国人求職者のうち34%が、AIが自分の雇用の安定を脅かすと懸念していた[33]。AIは、仕事のうち身体的・認知的に消耗する部分を肩代わりすることで、職業生活を延ばしうる。逆に、経験の価値を下げることで縮めることもありうる。どちらになるかは、高齢労働者がAIを使いこなす訓練を受けられるかどうかに大きく左右される。
最も高齢な労働力から学ぶ
日本、韓国、シンガポール、デンマーク、ドイツ、中国、フランス
先に高齢化した国々は、考えうるほぼすべての政策を試してきた。再雇用の義務化、就労所得の非課税化、平均余命への自動連動、そして改革の凍結である。その結果こそ、何が機能するかについての最良の証拠である◈ 強力な証拠。
日本の手法は、年金ではなく雇用主に義務を課すものである。高年齢者雇用安定法により、企業は65歳までの雇用確保を義務づけられている。2021年施行の改正以降は、70歳までの就業機会確保の努力義務も負う[48]。70歳までの就業確保措置を講じている企業の割合は、2021年の25.6%から2024年には34.8%に上昇した[48] [36]✓ 確認済み事実。2025年のデータでは中小企業が32.4%、大企業が25.5%と、中小企業の方が先行している[48]。人数の面では、この方式は機能している。日本の60代後半の就業率は、大国の中で最も高い[3]。弱点は仕事の質である。継続雇用は通常、大幅に低い賃金での有期契約となる。人々は働き続けるが、技能に見合わない職務に就くことも多い[36]。
韓国は、定年と年金受給開始年齢が乖離すると何が起きるかを示している。韓国の法定定年は60歳である。一方、国民年金の受給開始年齢は2033年までに65歳へ引き上げられる。その結果、給与も年金もない期間が最大5年生じる[37]✓ 確認済み事実。65歳以上の韓国人の約40%が相対的貧困線を下回って暮らしている。この比率はOECDで最も高く、OECD平均の約14.8%を大きく上回る[49]◈ 強力な証拠。国家人権委員会は2025年3月、定年を65歳に引き上げるよう勧告した。2026年6月には与党・共に民主党の委員会が、2028年から2年ごとに1歳ずつ引き上げ、2036年に65歳とする案を示した[50]。国民の支持は高く、段階的引き上げへの賛成は88.3%に上る[51]。
韓国の議論は、誰が負担するのかという問題も浮き彫りにする。韓国労働組合総連盟(韓国労総)のリュ・ギソプは、退職から年金受給までの所得の断絶を構造的問題と表現した。OECDで最も高い同国の高齢者貧困率に直結する問題だというのである[37]。雇用主側では、韓国経営者総協会(経総)のイ・サンチョルが、一律の延長は恩恵を大企業や正規雇用の組合員に集中させ、労働市場の格差を深めると主張する[37]⚖ 議論あり。反対側の全国民主労働組合総連盟(民主労総)は、段階的な案について、何十万人もの労働者を所得の空白に置き去りにするに等しいと批判した[50]。双方とも、問題の一面を正しく捉えている。定年の引き上げは安定した職を持つ内部者を守る。一方、最も所得を必要とする不安定就業者は、恩恵を最も受けにくい。韓国が2026年末に設けた決定期限は、双方に応える妥協が可能かどうかを試すことになる[37]。
シンガポールは、最も周到に段階を踏んだモデルを示す。同国の退職・再雇用法の下で、2026年7月1日に定年は63歳から64歳へ、再雇用年齢は68歳から69歳へと引き上げられた。2030年までに65歳と70歳に達する予定である[52]✓ 確認済み事実。雇用主は、対象となる労働者に再雇用年齢まで再雇用を提示しなければならない。これにより高齢の従業員は、従来の契約を固定することなく、継続就労を法的に期待できる。デンマークは逆の道を選び、義務ではなく結果を法制化した。2025年5月、同国議会は賛成81、反対21で、1970年以降に生まれた人の年金支給開始年齢を、2030年に68歳、2035年に69歳を経て、2040年までに70歳へ引き上げることを可決した[53]✓ 確認済み事実。デンマークは2006年の福祉改革以来、年金支給開始年齢を平均余命に連動させてきた[53]。それでも、メッテ・フレデリクセン(M. Frederiksen)首相は2024年、この自動的な仕組みに疑問を呈していた。国民に「もう1年長く働け」と言い続けることはできない、と述べたのである[54]。
ドイツは義務ではなく誘因を選んだ。2026年1月1日に施行された「アクティブ年金(Aktivrente)」は、法定退職年齢を超えて働き続ける人の給与所得のうち、月2000ユーロまでを所得税の対象外とする[61]✓ 確認済み事実。自営業者、公務員、ミニジョブ従事者は対象外である[62]。ラース・クリングバイル(L. Klingbeil)財務相は、この制度を報奨として打ち出した。長く働くことを選んだ人は、手取りで実感できる利益を得るべきだというのである[61]。しかし、恩恵を受けそうなのは、すでに67歳を超えて働く能力と意欲を持つ人々である。典型的には、健康で賃金の高い従業員だ。死荷重損失をめぐる疑問が生じるが、答えは今後の評価を待つしかない。これに対しスウェーデンは、調整の仕組みを制度自体に組み込んだ。目標退職年齢「リクトオルデル(riktålder)」は2026〜2031年について67歳に設定され、最も早い受給開始は64歳である。この年齢は平均余命に応じて変動する[63]✓ 確認済み事実。
中国とフランスは、政治的な限界を示している。中国の改革は2024年9月に全国人民代表大会常務委員会で採択された。2025年1月から15年かけて、男性の退職年齢を60歳から63歳へ、女性を50歳から55歳、または55歳から58歳へ引き上げる。あわせて、最低保険料納付期間を2039年までに15年から20年へ延ばす[8]✓ 確認済み事実。背景の一つには、中国社会科学院による予測がある。都市部の年金基金が2035年までに枯渇しかねないというものである[64]◈ 強力な証拠。フランスは2023年、大規模な抗議にもかかわらず最低年齢を62歳から64歳へ引き上げた[60]。ところが2025年末、セバスチャン・ルコルニュ(S. Lecornu)首相の下で改革は凍結され、法定年齢は2028年1月まで62歳9カ月に据え置かれた[65] [66]✓ 確認済み事実。ルコルニュは、今から2028年1月まで年齢の引き上げは一切行わないと約束した[65]。教訓は、改革が不可能だということではない。合意を欠いた改革は覆されうる、ということである。
- 雇用主への義務づけ(日本、シンガポール):企業は一定年齢まで継続就労の機会を提供しなければならない。就業率は高いが、賃金と仕事の質は低い[36] [52]
- 平均余命への自動連動(デンマーク、スウェーデン):予測可能性は高いが、支給開始年齢が70歳に近づくにつれ政治的な争点となる[53] [63]
- 税制上の誘因(ドイツ):すでに働ける人に報いる制度であり、死荷重損失のリスクがある[61]
- 法定の段階的引き上げ(中国、英国、米国):財政上の節約効果は大きいが、就業への効果にはばらつきがある[8] [11]
- 凍結または撤回(フランス):合意なき改革の代償を示す[65]
職業生活後半の就業率が最も高い国々、なかでも日本は、高齢の従業員を雇い続けるよう雇用主に義務づける一方、再雇用時の大幅な賃下げを容認することでそれを実現した[36]。この取引は就業者数を押し上げるが、制度化された年齢による賃金割引を定着させる。シンガポールの再雇用モデルとドイツの税制優遇は、前者を保ちつつ後者を避ける試みである。いずれもまだ評価されていない。
争点となる問い
若者の雇用、公平性、生産性、そして引退後の脳
長く働くことをめぐる政治は、四つの論争に左右される。高齢労働者は若者の仕事を奪うのか。支給開始年齢の引き上げは逆進的か。高齢化した労働力は生産性が低いのか。そして、働くことは老化する脳を守るのか⚖ 議論あり。
最も古い反論は、高齢労働者がいなければ若者に回るはずの仕事を奪っている、というものである。経済学者はこれを「労働塊の誤謬」と呼び、証拠の大半もこの呼び名を支持している。全米経済研究所(NBER)が実施し、ジョナサン・グルーバー、ケビン・ミリガン(K. Milligan)、デービッド・ワイズが率いた12カ国の国際共同研究は、高齢者の就業増加が若者の雇用機会を減らすという証拠を見いださなかった[67] [68]◈ 強力な証拠。ボストン・カレッジのアリシア・マネル(A. Munnell)とエイプリル・ヤンユアン・ウー(A. Y. Wu)は、1977〜2011年の米国州別データを分析した。高齢労働者の就業が多い州ほど、若者の失業率は低く、就業率は高かった。両氏は、この理論はもっともらしく聞こえるかもしれないが、データはそれを支持しないと結論づけた[69]。長期的には経済が調整する。働く高齢者は消費し、貯蓄し、ほかの労働者への需要を生み出すからである。
しかし、短期的には様相が異なりうる⚖ 議論あり。ティト・ボエリ(T. Boeri)、ピエトロ・ガリバルディ(P. Garibaldi)、エスペン・モーエン(E. Moen)は、退職年齢を急激に引き上げたイタリアの2011年フォルネロ改革を分析した。その結果、追加で1年間職にとどまる高齢労働者5人につき、企業は若者の採用をフルタイム換算で約1人減らしたことがわかった[70]。この効果は資金制約に直面する企業に集中していた。人件費の総額が固定されていれば、上級社員の給与が1人分増えるごとに、若手の採用が1人分押し出される。二つの証拠は両立しうる。成長する経済で採用が柔軟であれば、高齢労働者は若年労働者を補完する。停滞した経済で人件費が硬直的であれば、急な改革は若者の参入を阻みうる。改革の順序と経済状況は、改革それ自体と同じくらい重要である。
公平性の問題で争われているのは、事実よりも処方箋である⚖ 議論あり。平均寿命が所得や学歴によって大きく異なることに、異論を唱える者はいない[40] [41] [38]。意見が分かれるのは、この事実が支給開始年齢の引き上げを容認できないものにするのか、それとも補償措置を求めるにとどまるのか、という点である。補償措置とは、障害給付の受給要件の緩和、長期加入者や重労働従事者の早期退職、低所得層への年金の上乗せなどである。デンマーク自身の議論が、この緊張関係を物語る。70歳での退職を法制化した政府でさえ、その背後にある自動的な仕組みに疑問を呈している[54]。IMFは、平均的な健康状態が改善するなかでも、学歴、資産、農村居住による健康の社会経済的格差は残っていると指摘する[12]✓ 確認済み事実。
生産性をめぐる論争は、分析の単位によって結論が変わる⚖ 議論あり。特定の職場で個々の労働者を調べた研究では、60歳までは生産性の低下が見られない。最もよく知られているのが、ベルシュ=ズーパンの組立ラインの研究である[26]。一方、地域経済全体を対象とする研究では、高齢化した地域ほど成長が遅く、その主因は生産性にある[27]。認知機能をめぐる論争も似ている。スザン・ローヴェダー(S. Rohwedder)とロバート・ウィリス(R. Willis)は、退職年齢の異なる国々を比較し、退職が60代前半の人々の認知能力を有意に低下させることを見いだした。退職によって日々の環境が刺激に乏しくなる可能性を示唆している[71]。しかし、ノーマ・コー(N. Coe)らは、予期しない早期退職勧奨を自然実験として用い、ホワイトカラーには因果的な負の影響がなく、ブルーカラーには正の影響があることを示した[72]。仕事が脳を守るかどうかは、どんな仕事かによって決まるのかもしれない。
自動化と移民は、就労延長に代わる選択肢として語られることが多い⚖ 議論あり。ダロン・アセモグル(D. Acemoglu)とパスクアル・レストレポ(P. Restrepo)は、高齢化する社会ほど産業用ロボットの導入が速いことを示した。ただし、ロボットが代替するのは高齢労働者ではなく、36〜55歳の中年労働者である傾向が強い[73]。したがって自動化は、働き盛り世代の人手不足を補うにすぎず、人々が長く働く必要性を消し去るわけではない。移民は生産年齢人口の減少を一部相殺できる。しかし日本や韓国のように生産年齢人口が30%以上減ると予測される国では[1]、必要な規模は政治的にも社会的にも前例のないものとなる。移民、技術、職業生活の延長という三つの手段は、いずれも単独では十分ではない。だからこそ、就労延長をめぐる議論は「するかどうか」ではなく「どのように行うか」をめぐるものなのである。
証拠の重みは、条件付きの結論を示唆している。健康に恵まれ、蓄積した技能を生かせる仕事に就いている大半の人にとって、長く働くことは可能である。また、一般に若者の雇用を奪うこともない◈ 強力な証拠。しかし、誰にとっても等しく可能なわけではない。労働市場はそれを歓迎せず、一律の改革の負担は、寿命が短く健康に恵まれない人々に偏って降りかかる。したがって争点は、人々が長く働くべきかどうかではない。どの人が、どの仕事で、働き続けられない人々をどう守りながら、という点にある。
証拠が示すもの
退職年齢の政策から、職業生活全体の政策へ
長く働くことの人口学的な必然性はすでに決着している。しかし、それを年金支給開始年齢だけで実現すべきだという政策論は決着していない。成果を上げている国々は、支給開始年齢の引き上げに、雇用主への義務づけ、技能と健康への投資、働き続けられない人々の保護を組み合わせている◈ 強力な証拠。
本報告書が集めた証拠は、五つの結論を指し示す。第一に、就労の長期化は将来の政策ではなく、現在の現実である。OECDの60〜64歳の就業率は20ポイント以上上昇し[2]、日本では60代後半の過半数が働いている[3]✓ 確認済み事実。第二に、就労の長期化には価値がある。IMFは、より健康な高齢化が世界の成長率を年約0.4ポイント押し上げると推計しており[12]、支給開始年齢の改革は即座に財政上の節約をもたらす[11]。第三に、主な障壁は労働者の能力よりも、雇用主の意欲であることが多い。採用に関するフィールド実験がそれを示している[28]。第四に、長く働く能力は、健康、学歴、所得によって不均等に分布している[38] [40]。第五に、合意なく押しつけられた改革は覆されうる。2025年のフランスがそれを実証した[65]。
現在の政策の組み合わせに伴うリスクは、これらの証拠に照らして評価できる。低所得層の健康寿命よりも速く支給開始年齢が上がれば、人々は就労ではなく障害給付や貧困へと押しやられるおそれがある。採用差別がある以上、50代後半で職を失った高齢の求職者は、同等の仕事に二度と就けないかもしれない。訓練制度は依然として、長い職業生活を控えた労働者向けに設計されており、あと15年働く55歳向けにはなっていない。そして日本のように継続雇用で賃金を割り引けば、雇用主にとって職業生活の延長は経済的に成り立つが、労働者にとっては魅力に乏しくなる[36]。
| リスク | 深刻度 | 評価 |
|---|---|---|
| 一律の支給開始年齢引き上げがもたらす逆進的な負担 | イングランドの最貧地域では健康寿命が19年短い。一律の引き上げは、最も働く力の弱い人々に負担を転嫁する[38]。 | |
| 高齢労働者に対する採用差別 | 4万件超の応募を用いたフィールド実験が、高齢女性への差別の確かな証拠を示している[28]。 | |
| 年金の空白期間と高齢者の貧困 | 韓国では定年が60歳、年金受給開始が65歳で、その空白と並行して高齢者の貧困率は約40%に達する[49] [37]。 | |
| 技能の劣化と訓練の軽視 | 職業関連の訓練を受ける55〜65歳は24%にとどまり、45〜54歳の41%を下回る[45]。 | |
| 改革の政治的撤回 | フランスは2023年の改革を2年足らずで凍結した。合意なき改革のもろさを示している[65] [66]。 |
証拠が支持する政策対応は、退職年齢の設定よりも幅広い。職業生活の後半を、押しつけられた延長ではなく、設計の対象となる一つの段階として扱うことである。第一に、年齢差別禁止法を、ほかの保護対象属性と同じ真剣さで執行することである。米国では2024会計年度に申し立てが1万6223件に達したのに、連邦の執行機関が起こした訴訟は7件にすぎなかった[34]◈ 強力な証拠。第二に、解雇後の再訓練ではなく、まだ12〜15年の職業生活が残る50代のうちに、キャリア中盤の訓練を行うことである。第三に、身体的負担の大きい仕事に就く人々が生産性を保てるよう、産業保健の施策や柔軟な働き方を整えることである。そして、働き続けられない人々のために、労働市場から退出する専用の道を用意することである。
年金支給開始年齢を、平均寿命ではなく、実際に誰が働けるかという証拠に連動させることも必要である。すでにいくつかの国は、長期加入者や重労働従事者の早期退職を認めている。寿命格差に関する証拠は、こうした例外が抜け穴ではなく是正措置であることを示唆している[41] [40]。ドイツの非課税就労所得とシンガポールの再雇用年齢の段階的引き上げは、長く働くことを、強制するのではなく魅力ある選択肢にしようとする初期の試みである[61] [52]。その結果は、中国の長期にわたる段階的移行[8]やデンマークの70歳への引き上げ[53]とともに、次世代の証拠となるだろう。
最も高齢な労働力を抱える国々から得られる中心的な教訓は、年金支給開始年齢が政策の中で最も重要度の低い部分だということである。人々が実際に長く働くかどうかを決めるのは、雇用主が彼らを雇うか、健康がそれを許すか、技能が時代に即しているかである[12] [42]。支給開始年齢だけを動かす政府は、財政上の節約は手にするだろう。しかし経済的な利益の多くは取りこぼされ、その負担は、最も担う力の弱い人々にのしかかる。
労働力の高齢化への対応は、結局のところ一つの試金石である。長く健康に生きられるという生物学上の朗報に、その歳月を生産的かつ公正に生かせる制度で応えられるかどうかが問われている。IMFによれば、いまの70歳はかつての53歳に匹敵する認知能力を持つ[12]。紛れもない朗報である。しかしそれは平均値にすぎず、年金政策を生きるのは個人である。健康で学歴が高く、良い職に就いている人にとって、70歳まで働くことはますます現実的になり、ときには望ましくもある。しかし介護職員、肉体労働者、そして55歳で採用からふるい落とされた女性にとって、労働市場はまだその約束を交わしていない。年齢を引き上げることではなく、この隔たりを埋めることこそが、縮小する社会が取り組むべき真の政策課題である。